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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)1577号 判決 1949年5月18日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人松本重夫の上告趣意第二點について、

原審第三回公判調書に被告人が身體の拘束を受けなかったという記載がないことは所論の通りである。しかし被告人が身体の拘束を受けなかったことは公判調書の必要的記載事項ではないのであって公判調書に右の記載がないということから直ちに被告人が公判廷で身体の拘束を受けたという積極的事実を推斷することは許されないのである。しかのみならず記録によってみると被告人は昭和二二年一一月一三日第一審裁判所の保釋決定によって釋放されておりその後保釋の取消された事実はないのであるから原審においても保釋中であったことが判かるのである、そしてかかる保釋中の被告人に對して裁判所が公判廷でその身體を拘束するようなことは今日の公判審理の実際からみて全く想像し得ないところであるから本件公判調書に被告人の身體不拘束の記載がないことから身體拘束の事実を推斷することは事理に反するのであって、むしろ被告人は身體の拘束を受けなかったものと認むべきである。(本件上告論旨は原審公判廷で被告人が身體の拘束を受けた事実のあったことを主張するものではない)然らば原判決には所論のような違法なく論旨は理由がない。

同第三に點ついて、

原判決の擧示する證據によって原判示の事実を認定できるのであって原審に論旨の二において主張するような審理不盡の違法があると認めることはできない。そして論旨は原判決が本件につき被告人を懲役十月の実刑に處したのは量刑甚しく不當であると主張するのである。しかし本件は新刑訴法施行前に公訴の提起があった事件であるから刑訴施行法第二條によって刑訴應急措置法の適用があるのである、從って同法第一三條第二項の規定によって量刑不當の主張は上告理由とすることができないのである。論旨は手續法は審判を爲す時の法律を適用するのが原則であること及び新刑訴第四一一條の規定が舊法及び刑訴應急措置法よりもより強く人權を尊重するものであることを理由として新法施行前に起訴された事件であっても新法施行と同時に新法を適用すべきであり、これを阻止した前掲刑訴施行法の規定は違憲であると主張するのである。しかし新刑訴法を如何なる時から如何なる事件に適用するかは經過法の立法に際して諸般の事情を勘案して決せらるべき問題で法律に一任されておるものである、從って刑訴施行法第二條が新法施行前に公訴の提起があった事件に付ては新法施行後もなお舊法及び應急措置法による旨を規定し新法を適用しないことにしたのは何等憲法に違反するものではなく、又所論の如き理由からこれを憲法違反と解せなければならないものでもない。(なお新刑訴第四一一條の規定は量刑の不當をもって獨立の上告理由として認めた趣旨ではない。)

それ故論旨は採用することはでない。(その他の判決理由は省略する。)

よって舊刑訴第四四六條により主文の通り判決する。

この判決は(中略)裁判官全員一致の意見によるものである。(後略)

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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